2025.8.7
愛媛のデカボヒーロー
植物が持つ予想外の価値を発見!高校生のバショウ研究。

愛媛県の西部、風情あふれる街並みから「伊予の小京都」として知られる大洲市。この地域には古くから自生している植物「バショウ(芭蕉)」があります。
存在が忘れ去られつつあったこの植物に新たな価値を見いだし、脱炭素社会の実現に向けたユニークな研究に取り組んでいる高校生たちがいます。愛媛県立大洲農業高等学校の果樹班の皆さんです。

彼らの取り組みは、地域資源の活用、脱プラスチック、温室効果ガスの削減、さらには持続可能な農業の実現と、多岐にわたる可能性を秘めています。
今回、果樹班のメンバーであるKさんとYさんにお話を伺い、この先進的なプロジェクトの全貌に迫ります。
地域課題から生まれた新肥料開発。
企業・国も注目するサステナブルな挑戦。
彼らの研究の一つが、バショウを活用した有機肥料の開発です。研究のきっかけは、バショウが他の植物に比べて「カリウム」という成分を豊富に含んでいることでした。
大洲市はぶどうの生産が盛んで、カリウムはぶどうの実を太らせるために大事な肥料。
そこで、バショウにカリウムが多いなら良い肥料ができるんじゃないか、という発想から始まったそうです。

この研究は学校内にとどまらず、肥料を扱う「株式会社
日本有機四国」との共同開発にまで発展。農林水産省が新たに設けた「菌体りん酸肥料」という肥料規格への登録という快挙を成し遂げました。これは全国で22例目、県内では初となる登録であり、国の基準を満たす高いレベルにある研究です。
肥料の効果について、県内の4市1町の残渣によって発生する温室効果ガスは300kgほどですが、この新肥料を活用することで約120kg削減できるという試算も出ています。

さらに、この新肥料は輸入に依存し価格高騰が問題となっている化学肥料の使用量を減らすだけでなく、化学肥料と違って土壌中の微生物の働きを活発にし、土地そのものを豊かにする効果も期待されているそうです。
まさに環境負荷を低減し、持続可能な農業を実現するための挑戦です。
研究活動で見つけた「やりがい」と「目標」。
次なる全国大会への情熱。
果樹班では、Kさんが主にぶどうの栽培研究を担当し、Yさんは広報として活動の成果を発信しています。
果物が大好きだというKさんは、「私は実際にぶどうを育てる作業に携わっていますが、自分たちの研究を生かし、手間暇かけて作ったぶどうはかなりおいしいです。何より自分たちが作ったものが販売される瞬間がうれしいです」と笑顔で話します。

「私は広報担当として新聞などの取材を受けるのですが、ただ内容を暗記して読むだけでなく、いかにうまく伝えるかということを心掛けています」と語るYさん。
その努力は、農業高校の生徒が所属する「日本学校農業クラブ連盟」の発表会で実を結びます。
校内、県、四国と大会を勝ち抜き、全国大会に出場を果たしました。「発表すること自体が好きで努力もしてきたので、がんばりが報われたと感じました」と、達成感を語ってくれました。
Kさんも「全国のレベルの高い発表を見て、多くを学びました。次は、最優秀賞を目指したいです」と意気込みを話します。
研究から実際の栽培、そして大会での発表と、皆さん忙しいながら充実した時間を過ごされています。

二人の目標は、今年も7月の県大会からスタートする発表会で勝ち進み、全国大会で優秀な成績を収めること。今年の発表テーマは「バショウの地域普及と新肥料の実証実験」。彼らの情熱が、全国の舞台で輝くことを期待します。
忘れられた植物から地域の宝へ。
バショウが開く未来と高校生たちの思い。
研究を始めるまで、二人にとってバショウは「名前も知らない植物」でした。「家の近くに生えている大きな葉っぱ、というくらいの認識で、まさかこんなにすごい力を持っているとは思いませんでした」とYさんは振り返ります。
大洲地域では、かつてバショウはお盆の棚飾りとして利用されていましたが、生活様式の変化とともにその文化は廃れ、管理されなくなったバショウが景観を損なう問題も起きていました。
「研究を進める中で、バショウには知られていない価値があると分かりました。肥料だけでなく、和紙やそれを使った果実袋など、もっといろいろな可能性があるんです」。
Kさんがそう語るように、2人が所属する果樹班では多様なバショウの活用研究が行われています。

数年前、先輩たちの研究にて、バショウの繊維から作った和紙でぶどうの果実袋を試作したところ、通気性が良く、果実の色づきを良くする効果が期待できることが判明したそうです。この和紙は使用後に土に還るため、プラスチックの果実袋を代替し、土壌改良にも貢献する、まさに一石二鳥のアイデアです。
「こうした活動を通して、身近にある植物を活用することが環境に良いと学べました。使えるものを無駄にせず、大切にすることを皆さんに伝えたいですね」とYさん。
Kさんも「バショウを使った郷土文化を、少しでも若い世代に残していきたいです。そのためにもバショウの価値を広め、もっと多くの人に知ってもらい、活用してもらいたいです」と語ります。

科学的な研究から始まり、環境問題への取り組み、そして地域の歴史や文化の継承にまでつながっています。
身近な植物「バショウ」の可能性を信じ、ひたむきに研究を続ける大洲農業高校の生徒たち。彼らの挑戦は、脱炭素社会の実現に向けた一歩であると同時に、身近にあるものに目を向ける大切さも教えてくれます。